約 614,948 件
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/119.html
2スレ目 702-708 あ、見てください。堂上教官」 館内警備中に郁が堂上を、小さく手招きをする。 警備中に何をやってんだ、お前。と、心の中でつぶやく堂上が近づいていくと、 郁の指差す方向に目を向けた。 「・・・カミツレか?」 「そうなんですよ。この前くらいから植えてるのを、柴崎が教えてくれたんです。 なんでも業務部の方から庭に新しく花を植えることになったらしくて」 無邪気に笑いながら郁がカミツレに見とれている。 「わかったから、行くぞ。カム」 「わん。・・・ってちょっと!いつまであたしのことを犬扱いしてるんですか!? 教官、あたしの事なんだと思って・・・」 「足はあるが頭が悪い犬・・・かな。二度もいわせるな。カム」 「もうっ。」 待ってください。堂上教官。 先に行く堂上に、まるで忠実な犬のようについていく郁。 ある出来事の後から、堂上は郁を犬扱いする。 ―――教官の犬。 そんな卑猥な煩悩が郁の頭によぎる。 いやいや!何考えてるのあたし!! 郁は、煩悩を頭の外に出すように首をふった。 しかし、 「どうした?笠原」 「いえ!なんでもありません!」 煩悩の犬追えども去らず、 郁はこの後ずっと卑猥な煩悩を消すことができず、 堂上と目を合わせないようにしながら、 警備に戻った。 「すいません。」 図書館内の庭を警備していた所、 突然、声をかけられた。声をかけたのは、 愛犬のジェイクを連れた、初老の「上品な」女性。 前までなら、「上品そうな」女性と心の中で思っていた。 なぜならこの飼い主は以前、図書館内でマナーの悪さで、 一時期騒がせていた事があった。 連れてきた犬を、図書館の庭で放すのだ。 その間飼い主は、ベンチの上で本を読む。 彼女いわく、 犬を放してはいけない規則は書いてない。 気持ちいい庭を愛犬にも楽しませてあげたいと思って何が悪いの? とのこと。――つまり、融通のきかないタチの悪い利用者だった。 以前までは。 ――俺はな、素質のいい犬を駄目犬にしているあのバカ飼い主が心底許せないんだよ! 犬を放置プレイ(?)にしていた飼い主に、ついに堂上は見かねて、 飼い主にある賭を持ち込んだ。お互いの「犬」を徒競走させたのだ。 飼い主はもちろんご自慢の「犬」。 ジェイク ジャーマン・シェパード 成犬 ネコ目イヌ科イヌ属 対する堂上は足がご自慢の「犬」。 笠原 郁 純粋栽培乙女・茨城県産 人間 霊長目ヒト科ヒト属 対決カードの面白さも盛況に拍車をかけ、大勢のギャラリー(足フェチを含む)が見守る中、 堂上の策もあってか、「犬」である笠原郁が、 もとい、笠原犬が勝利したのである。 その出来事の後、決して負け犬の遠吠えを吐くことなく、 飼い主は犬のリードを放さないことを誓ってくれた。 今では、図書館利用者からも見直され、犬連れ愛読者として有名である。 そして今にいたるわけだった。 「すいません。」 再度、飼い主が声をかけ、堂上が答えた。 「どうなさいました?」 「実は、レファレンスをお願いしたいんですが・・・」 「レファレンスですか?でしたら、館内のカウンターで・・・っあ」 そこで堂上が気がつく。 飼い主は、愛犬のジェイクを連れているから、中に入れないことに。 「いつもはジェイクを置いて行くんだけど・・・、ねぇ」 あれ以来、マナーを守ってきた飼い主からしたら、気が引けるのだろう。 「そういうことでしたら、笠原」 「はい」 「すこし遠いが、ジェイクを庁舎の裏に連れて行ってくれ、 俺はレファレンスにあたる。」 「わかりました。」 「では、こちらへ。ちなみに、どのよな本をお求めで」 「ある人の、諸芸の本なんだけど・・・」 「たしかそれは先日、こちらで整理した際、奥の棚に変わりましたね。 すこし歩きますがよろしいですか?」 「ええ」 「ではまず、館内へ」 堂上が飼い主を案内しにいった。 「・・・ん?どうしたのジェイク?行こう」 郁がジェイクを庁舎の裏へと連れて行く途中のことだった。 ジェイクが突然立ち止まりそっぽを向いている。 こんなとき、どうすればいいんだろう? 1.リードを引き、無理矢理引っ張っていく 2.ジェイクがその気になるまで待つ 3.犬用のトレーニングコマンドを使用 3? 「えっと・・・、ごー、すとれーと? ・・・って、きゃ!!」 いくら犬並の足を持つ、170cm級戦闘職種大女だろうと、 ジャーマン・シェパードの力と速さにはさすがに勝てない。 引っ張られる一方だ。 「わ、わっ!えっと、すてい!ステイ!ステーーーイ!!!」 声を上げて止める郁。さすが素質のある犬。 ピタッ。と止まり郁に振り返る。 「はぁ、はぁ。・・・と、止まったぁ・・・はぁ」 郁とジェイクの荒い息遣いが交差する。 どこまで引っ張られたんだろう。 周りを見渡すと、思ったより引っ張られたみたいだ。 塀と訓練道場の間まで来てしまっていた。 「もう。ダメじゃない、ジェイク。なんでこんな所まで・・・」 郁が叱ろうとジェイクを見るがどういうわけか、 ジェイクは郁周りをくるくると回り始めた。 「ちょっとジェイ、ひゃ!!」 目の前景色が変わる。仰向けに倒されたのだ。 ジェイクが郁周りを回った時、リードが足に絡まったのだ。 「コラ!ジェイク!!何やってるの!?いい加減、に・・・・・・っ!!」 しなさい、という言葉を飲み込んだ。 足に何かが当たっている。 思わず目をやると、ジェイクの「ソレ」が押しつけられていた。 その場にはもう、ジェイクの荒い息遣いしか聞こえなかった。 「ちょ!ま、待ってジェイク!?とりあえず離れ・・・きゃ!!」 リードが巻きついているためか、思うように足が動かない。 何とか上半身の動きだけで逃げようとしたが、ジェイクが体の上にのし掛かり、 それすらも叶わない。 「何でこ、んなこと、になんてんのよ。あっ・・・んんっ!!」 違和感を感じた。 転けた拍子にスカートが捲れたのだろうか。 さっきから押しつけている「ソレ」を足の下から上へ上へと、 擦りあげてゆき、探し当てたかのように、 郁の秘処を下着越しに「ソレ」を擦っていく。 「あぅ…やぁっ!お願い!、やめて、やだぁ……」 ジェイクはお構いなしに腰を振っていく。 段々――速くなってる。 どうしよう・・・。訓練道場からは声が聞こえない。 いや、もし聞こえてもこんな所、誰にも見せれない。 こんな所見られでもしたら、翌日には荷物をまとめ、実家に帰るだろう。 犬に欲情され、押し倒され、襲われている。 堂上教官が見たらなんて思うだろう。 仮にも、あたしは堂上教官の彼女だ。 彼女が犬に襲われている所を見たら・・・。 「んっ!!あっ…そ、んな、ダメだってばぁ…っ!!」 しかし、心で思っても体は正直になってきた。 下着が濡れているのは、ジェイクのせいだけではなくなってきた。 ジェイクと郁の息遣いに、水音が交じる。 ・・・くっちゃ、・・・くちゃ。 「はぁ、ぁあ!・・・い、ぁっ!・・・はぁ、はぁ・・・んぁ!!」 思えば堂上教官と体を交えたのはずっと前になる。 スポーツブラ事件以来、何度かは経験を重ねたが、 最近はご無沙汰で、キスも恋しくなっていた。 「そ、・・・ぁっ。そんな。・・・あ!・・・・・・ジェイクに・・・」 ・・・犬に襲われ、感じてるなんて。 あたしは・・・堂上教官の・・・。 ―――教官の犬。 「んぁ!!はぁ!ぁ、ぁあ!やぁ!・・・っあ!!」 何を考えているんだあたし! 早く何とかしないといけないのに! 今にも堂上教官が飼い主と、レファレンスを終えてくるだろう。 そして、庁舎の裏にいるないと知るや、きっと探しに来るだろう。 自分たちの犬を探しに・・・。 煩悩の犬追えども去らず 「んぁ、・・・あぁ!!」 もはや罪悪感も、負い目も、快感を後押しする。 下着越しにもかかわらず、絶頂へと登り続けていった。 ごめんなさい。どうじょうきょうかん。 あたし、もう・・・だめです。 「はあ!ふっ、・・・ぁぁ、イ、イッちゃう。イク!!・・・っんああ!!」 郁が果てたと同時に、ジェイクもまた、自身の「ソレ」から精液を、 郁の下着に、足に、服装に撒き散らした。 「はぁ・・・ぁ、はぁ、・・・はぁ・・・」 後になって罪悪感と後悔が追いついてきた。 しかし、まだジェイクは腰を振り続けている。性欲が尽きないのだろう。 きっとそれは、この状況が発見されるまで続くだろう。 郁はもう、意識が遠のいていった。 「きょ、・・・っん。・・・かん。」 ごめんなさい。きょうかん。 こんな・・・・・・淫乱な・・・いぬで・・・。 ・・・でもね。 薄らいでいく意識の中で、郁は・・・つぶやいた。 「ジェ・・・、ジェイクの・・・はぁ、きょうかんの・・・より・・・」 ・・・大きっかったなぁ。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/59.html
1スレ目 416-419,424-429,433-440 その1 「あら、だーれも残ってないの?」 当麻の領事館駆け込みから数ヶ月。 リハビリは一応終えて特殊部隊に完全復帰した堂上だが、哨戒などとっさの行動が必要になる防衛業務ではもしもを考えシフトを外してある。 堂上班始め特殊部隊隊員が全員出払っていたため、一人残されていた堂上が折口に茶を出した。 「ちょうど良かったわ。堂上君に話があったの」 その微笑みは異性を簡単に虜にできる程に艶やかだったが、あいにく堂上は長年の付き合いで折口の本性を知っている。 この人はこう見えて中身は玄田と同等だ。 堂上の内心を知ってか知らずか折口は軽く爆弾を投げた。 「郁ちゃんとデートして来てくれない?」 「は?」 堂上は思わず素になって折口に問い返した。 その折口はいつものごとく隊長室の応接ソファにだらしなく腰を下ろしていたが、軽く座り直す。 「そんなすっとんきょうな声出さなくてもいいんじゃない、郁ちゃんと食事に行ってもらうくらい」 サラリと言い、このやり取りをニヤニヤしながら見ている玄田に視線を送る。 してやったり。の意図があからさまにわかった堂上は軽く目眩を感じた。 この人らはいい年して。 「冗談だったら失礼させてもらいますよ」 普段の仏頂面に加えて苦虫を10匹ほど噛み潰してから、堂上は隊長室のドアノブに手を伸ばした。 「まぁ待て話は最後まで聞くもんだぞ」 最後まで聞く価値があるのか?とは思ったものの玄田の命令口調に押されてノブを握る手が止まる。 「ごめんねえ。堂上君真面目だからついからかってみたくなるのよ」 「おい、折口、いい加減本題に入れ。後でこいつの八つ当たり受けんのは、俺しかいないんだからな」 「はいはい。実はね、当麻先生があの事件のお礼に二人を食事に招待したいっておっしゃってるのよ」 「当麻先生からは十分すぎるお礼をいただきましたが」 当麻が無事に自宅に戻ってから、表向きは図書費の寄付という形で図書隊に多額の現金が贈られた。 「それは図書隊へのお礼でしょ。二人には特に世話になったから、個人的にお礼をしたいそうよ。」 「ですが、当麻先生からはお見舞いもいただいてますし…」 渋る堂上相手に苦戦ぎみの折口に、すかさず玄田が援護を送る。 「奥様もお前らに是非とも礼をしたいそうだ、頑なに断る訳にもいかんだろう」 どうやら最初から断る自由はなかったようだ。 実のところ、あの事件の後で当麻と語る機会などなかったので、「郁とセットで招待」さえなければ、またとない誘いをこうも頑なに断りはしない。 いや、郁と食事に行くことが嫌な訳はない。ただ「二人で食事に」の誘いにホイホイ乗るのが気恥ずかしいだけなのである。 堂上が黙ってしまったのを折口は了承と受け取ったようだ。 会食の日時と場所については当麻から堂上の携帯に直接入る旨を伝えた。 去り際に折口は再度笑みをうかべて、言った。 「そんなに緊張しなくてもいいじゃない。郁ちゃんと二人で食事に行くなんて別に『珍しいこと』じゃないんでしょ?」 爆弾を投げっぱなしで折口が出て行ったため、結果完全にやさぐれた堂上の八つ当たりは玄田が一人受けるハメになった。 『当麻先生が事件のお礼に食事に招待して下さるそうだ。日時が決まったら連絡する。都合の悪い日はないか?』 夕食後、届いたメールに郁は首をかしげた。堂上とはつい先ほどまで一緒に特殊部隊事務所で勤務していたはずなのだが。 「なんでさっき聞かなかったのかな。それに都合って言っても、堂上教官あたしのスケジュール把握してるはずだよね。つーか、なんでメールなんだろ?」 恋人同士になってから半年、堂上からの連絡はほとんどが電話だった。 と言うより、お互い寮生活、加えて勤務のシフトが全く同じという環境では、携帯で連絡を取ることすら珍しい。 勤務中は極力私的な会話をしないようにしているが、(堂上はともかく免疫のない郁は下手に恋人モードに入ってしまうと、顔色を簡単に戻せない)いつでも直接話してしまう方が手っ取り早い。 メールでわざわざ連絡する理由か・・・この話誰にも聞かれたくないのかな。 ならば自分もメールで返事をと、コタツからもぞもぞ這い出て座り直す。 『特に都合悪い日はありません。この話内緒の話なんですか? 柴崎にも話さない方がいいですか?』 ちょうど送信ボタンを押した瞬間に 「ううーっ、寒かったぁ」 所用で外に出ていた柴崎が震えながらコタツに潜り込んできた 柴崎にも話せないかもしれないメールのやり取りだ。 柴崎が部屋に戻った瞬間肩がビクリと跳ねてしまった。 当然それを見逃すほど柴崎は甘くない。 「ふうん、そんなにやましいメールのやり取りしてんの?」 「な、やましいって!?そんなんじゃないっ!」 焦っている郁は柴崎のからかい口調に気がつかない。 「じゃ、何?人が部屋に入ってきただけであんな驚き方するメールって」 「それは…」 郁が言葉を選ぼうとしたとたん通常とは異なるメール着信音が響く。 うわぁ、なんであたしマナーモードにしてないのよー。 それになんでこのタイミングで返事くれるかな。 「堂上教官でしょ。メール見ないの?」 柴崎には堂上専用の着信音までバレバレになっている。 渋々郁は携帯を開いた。 『当麻先生が個人的にお誘いしてる話だから隊長と班員以外にはちょっとな。柴崎なら言わなくてもそのうち情報を仕入れてくるだろ』 「焦って損したぁ」 郁はコタツにぐったりと倒れ込んだ。 「で、何なの?」 「んとね、事件のお礼に当麻先生が食事に招待してくれるみたい。でも個人的なお誘いだから班とあんた以外の他の隊員には言うなって、それは分かるけど、なんでメールなんだろ」 「そうねえ、向こうは個室なのにね」 さすがの柴崎でも、昼間折口に散々引っ掻き回された堂上が、今日のところはバツが悪くて、ことこの件に関しては郁と直接話すのを避けておきたいと思っているとは、推測出来なかった。 「堂上教官」 当麻との会食の打ち合わせが完了した次の日、書庫勤務中の堂上の頭上から声がかかった。 見上げると柴崎が踊り場の手すりに寄りかかって体を乗り出していた。 柴崎はよくこの階段の上から声をかけてくる。 堂上は、猫は優位性を誇示するため高い位置に立つと聞いたことを思い出した。 前に手塚が笠原のことを犬に例えてたが、こいつは猫だな。 そう言えばあいつももたまに柴崎がチェシャ猫に見えるとか言ってたよな。 堂上の表情がフッとほころびかけた。 「聞いてますよ。当麻先生との会食の話。笠原、悩んでましたよ。何着てけばいいんだろって」 「だろうな。アドバイスしてやってくれ」 「もちろん。当日まで笠原には箝口令しいておきますから、楽しみにしておいてくださいね」 例のチカン事件の時よりもグレードアップさせますから。 ささやかれて、ついあの時の郁のミニスカートを思い出してしまい、堂上は自己嫌悪に陥る。 勤務中に何考えてんだ俺は。 「お膳立てはしておくんでぇ、あとは堂上教官、よろしくお願いしますね」 何をよろしくだ!? 言い返すこともできずにただただ堂上は口をパクパクさせただけだった。 会食の1週間前、郁は柴崎に付き合ってもらって買い物にでかけた。 妙に張り切っている柴崎に引きずり回され、やっと納得のゆく品物の購入にこぎつけた頃、辺りには夕闇が迫りつつあった。 帰りまでに一息入れようとカフェに入った。 「笠原、お茶飲んだらもう一軒行くわよ」 柴崎はまだ臨戦体制である。 郁は買い物の袋を数えながら当日のコーディネートをイメージしてみた。 「まだなんかあったっけ?」 「おおありよ」 柴崎は郁の耳元に口を寄せてよく知られた下着販売店の名を告げた。 「ちょ、まっ」 あんた何考えてんのよ?!と続けられずに郁はアウアウとするばかり。 「付き合ってる男女が休日前にホテルで食事しておいて、まっすぐ帰ってくるなんてことあるの?」 会食の日付が、ちょうど堂上班の公休日前日だったことには郁も気づいていた。 いや、気になっていた。 「食事って・・・今回は当麻先生とご一緒だし」 「食事はね。その後まで一緒じゃないでしょ」 「でも、堂上教官だって、そんなこと何にも…」 「免疫ないあんたにそんなこと言っちゃったら、当日まで正気保てないわ」 柴崎の指摘通り、この一連の流れだけで郁の顔は真っ赤に染まっていた。 自覚して郁はうなだれた。 「だいたいこの前も2人でドライブ行って、なんで門限に余裕で間に合う時間に帰ってくんのよ?あんたはともかく、堂上教官がこんなヘタれだったなんて思い違いもいいとこ」 「あのぉ、意味わかんないけど、柴崎、怒ってる?」 「どっちかって言うと楽しんでるけど?」 それはつまり自分達がウオッチ対象になってるということか。 「そろそろ展開変わってもらえたら、観察者としては盛り上がるんだけど」 「ぎゃーっ!バカっ。妄想もいい加減にしてよ」 ニヤニヤとしなだれかかってきた柴崎を郁は強引に押し返した。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/116.html
2スレ目 648 「ね、ねぇ柴崎。教官さ、可愛いブラしても何も言わないんだよ。やっぱりレースひらひらのとか、付けてるのか付けてないのか分からないぐらいきわどいのが好きなのかな?」 「つーかあんた想像してみなさいよ。雄弁に女物の下着を語る堂上教官の姿を。キモイ通りこしてミステリーよ」 柴崎はああ言ったけど、やっぱり気になる──! 「きょ、教官はっ、こういう下着嫌いですか? そ、それと、ど、どんなのが好きなんですか?」 色は白? それともパステルカラー? 真っ赤だったらどうしよう──!! 「……郁、落ち着いて聞け」 「……はい」 「はっきり言って暗くてよく見えん」 その日以来、郁が明かりを消して欲しいとは言わなくなったとか。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/29.html
1スレ目 170-183 「ど、どうしよう。柴崎ー」 困ったときの柴崎頼りというべきか、柴崎はいきなり郁に抱きつかれた。 女の同士の抱擁と言えば可愛らしいかもしれないが、170cm級の大女に抱きつかれると、むしろ巨大なクマのぬいぐるみと抱き合っているような気がしないでもない。 そんなことを言ったら馬鹿正直な郁はますます落ち込むであろうから、とりあえず柴崎は頭を撫でてやった。 「まずは落ち着きなさいって。ちゃんと聞いてあげるから」 お茶を一杯出してやり、柴崎もそれに一口つける。 少しだけ落ち着いたのか郁は大きな溜息をついてから、話し始めた。 「最近の堂上教官って変だよね?」 「そお?いつも通りの堅物じゃない」 そもそも郁の質問は心当たりがあるから訊ねているのは分かっていたが、実際の話、柴崎は変わりがないように見えた。 堅物のくせに純情で、自覚しているくせにそれを素直に認められない様は思春期の男子高校生かっ!と何度突っ込みたくなったことか。 観察する側としては、またとない獲物ではあるが。 以前と変わらず郁とは口を開けば喧嘩が始まり次第にエスカレートしていく様は油に火を注ぐ関係といえば分かりやすいだろうか。 まあ郁の友人としては、すったもんだの末に落ち着くところに落ち着いてくれて一安心なのだが。 「ちょっと前の飲み会だって二人でいい雰囲気だったじゃない」 丁度、堂上班と柴崎の休日が重なった先日、小牧が外に一緒に飲みに行かないかと郁を誘ってくれたのだ。 以前に男三人だけで飲んでいることを郁が羨ましがったのを覚えてくれていたようで、話を聞きつけた柴崎と一緒に参加した。 確かあの時は飲みすぎた郁を心配し、堂上は郁と先に帰ったはずである。 というか、そう仕向けた。 あの時の不服そうな堂上の顔はなかなか傑作だったのだが、それはとりあえず心の隅にしまっておく。 「良くないよ。あの後が問題だったんだから……」 思い詰めたように俯く郁に、柴崎はあらあらと意外そうに目を瞬かせた。 「じゃあ、聞かせないよ。事と次第によっては助けてあげるから」 それが堂上の弱みになるなどとは思うはずもなく、郁は喋り始めた。 あの後、三人と別れた郁と堂上は公園にいた。 あまりに足元がふらつく郁に強引に歩かせるよりは少し酔いを醒ました方がいいと堂上が判断したのだ。 ベンチに座らされると堂上はすぐに何処かに行ってしまった。 何処に行ったのかすら考えられず、ぼんやりとしていると、ほんのり上気した頬にひんやりとしたものがくっつけられて、郁は慌てて顔を上げた。 「これでも飲んどけ」 渡されたのはミネラルウォーターのペットボトルで、郁は素直にそれを受け取った。 飲みながら、そういえば昔、酔っ払った手塚にスポーツドリンクを渡してしまい、完全にノックダウンさせてしまったことを思い出した。 今更ながら悪いことをしたなぁなどと思いつつ、堂上の横顔を伺うと見るからに苦い顔をしていた。 その頃には大分酔いも覚めてきたのか、冷静に考えられるようになっていて、 「……教官、もっと飲みたかったんですか?」 だったら自分につき合わせてしまって、すみません、そう謝ろうとすると、堂上は素っ気無く突っぱねた。 「そうじゃない」 「でも……」 「いいからお前はそれを飲んでろ」 人が殊勝になってるのに、そんな言い方はないじゃん。 毎度のことながら、むうと脹れっ面をした郁に、堂上は不請顔になった。 してから、ああまたやってしまったと郁は後悔した。 どうして思っていることの半分も伝えられないのか、それがとてももどかしくて悔しい。 本当は自分につき合わせてしまったことを謝り、それでも一緒にいてくれることが嬉しいと伝えたかっただけなのに。 無意識についてしまった溜息に、堂上はばつが悪そうに視線を逸らし、 「言い方が悪かった。酒のことは本当に気にしなくていい。ただ、連れて来た場所が──」 「場所?」 そこそこ大きな公園には池もあり、その遊歩道には多くのベンチが並んでいた。 初夏とあって親しげに歩く恋人達の姿も多く見受けられた。 別におかしな場所では──と思った瞬間、郁は固まってしまった。 うわっ、なんて大胆。 っていうか、ここにいる人達って、みんな、そーゆー関係なのっ?! よくよく見ると親しげに歩く恋人達は、皆、大胆で見ているこちらが目のやり場に困ってしまうほど情熱的だった。 ベンチに座っているだけかと思っていたら、イチャイチャ抱きあっているだけでは飽き足らずキスまでしている者もまでいる。 もしかしたら、その先までしてしまっている者だっているかもしれない。 って、ここは外だぞ、いいのか、おいっ! そんな郁の突っ込みも虚し く、恋人達は人の目も気にせずにイチャイチャし続けていた。 これでは堂上も困惑するに違いない。 そもそも超堅物石頭の堂上がこーゆーことを許せるのかどうかすら怪しい。 今時珍しいぐらい硬派な堂上だから、こーゆーことは婚約や結婚をしてから、とか思っていても不思議ではないような気がする。 もしかしたら、そんなつもりで連れて来たとか思われてるのが嫌なのかもしれないなぁと郁は堂上の不機嫌な顔の理由を思い浮かべていた。 だから、いきなり手を握られた時は、自分の身に何が起きたのか理解できなかった。 反射的に見上げてしまった自分の顔はかなり間抜けだったろうが、それを斟酌する余裕なんてあるはずがない。 堂上はといえば、しれっとした様子で郁を見ようともしない。 もしかして、あたし、かなり酔ってるとか?でもって、これは夢とか……。 そう思えば思うほど、触れられる手の平の感触はリアルで、どう考えてもこれは現実で、気付いた瞬間、顔から火が出るんじゃないかと思うぐらい熱くなった。 ど、どうしよう。 反射的に振り払ってしまいそうになる自分を寸でのところで抑えたものの、動悸は激しくなる一方だ。 嫌ではないのだけれど、どうすることもできなくて、恋愛初心者の郁には、そのままでいることで精一杯だった。 でも自分達だって、そーゆー関係になったのだから、何れそーゆー機会が訪れるであろうことは予測していた。 それが自然の流れであるし、期待していないといえば嘘になる。 そっと肩を掴まれ、顔を上げて欲しいと顎に手を置かれてしまった。 ただ促されるままに顔を上げると、そこには当たり前だが堂上の顔があって、それだけで頭の中は真っ白になってしまった。 これからキスしちゃうんだと胸を高鳴らせているが、一向にそれは訪れようとしなかった。 堂上は呆れたように溜息をついて、 「……おい、こういう時は目を瞑るもんだろうが」 「で、でも……教官がどんな顔してキスするのか見てみたい──って、あ痛っ!いきなり、何するんですかっ!!」 「真面目な時に何を考えているんだ、貴様はっ!!」 思わず普段の叱り口調になり、堂上は慌てて周囲を見渡した。 静まり返った公園にはあまりに場違いな怒鳴り声だったことに気付いたようだ。 こうなると先ほどまでの色っぽい雰囲気は微塵も残っていない。 不貞腐れるように唇を尖らせた郁に、堂上の表情は険しいままだ。 だが、すぐに深い溜息と共に、 「キスしてもいいか」 その言葉に郁は不貞腐れていたのも忘れ、まるで魚のように口をパクパクとさせてしまった。 それを一々聞くのは反則じゃないのか、そう言い返したいのだが、言葉が出ない。 真剣な堂上の表情を前に、郁は小さく頷いた。 先ほどはああ言ってしまったものの、半分は正しくて半分は嘘だった。 実はあまりに緊張してしまって、目を瞑ることも忘れてしまっていたのだ。 だから今度は約束通り目を瞑って──思わず身体に力がこもってしまったのは仕方ない。 すると、やんわりと何かが唇に当たる感触がした。 ゆっくりと唇が離れていくと、ああ、これがキスなんだなぁと郁は胸が熱くなった。 堂上は照れくさいのか一向に視線を合わせようとしないが、それがちょっとだけ可愛く見えて、郁は好意を示すように堂上のシャツを掴んだ。 「…………いいのか?」 それに郁は頷いた。 恥かしいけれど、もう一度したいと素直に思った。 もっともっと堂上に触れて欲しいと思ったことは事実なのだが、いきなり舌が入ってくるのは思いもしなかった。 先ほどのキスなんて本当に可愛いもので、二回目のキスはそれとは比べ 物にならなかった。 頭がクラクラして、強張っていたはずの身体には何故か力が入らない。 気付けば堂上の手が背中に回されていて郁を支えていた。 その手が這い上がるように背中に触れられると、悪寒に似たぞくぞくっとしたものが背中を走った。 その瞬間、郁はあることに気付いた。 非常に重要で肝心なことに。 このままではそれにぶち当たることは確実で、それは何としても避けなければならない。 だって、そうしなければ、がっかりするのは堂上の方なのだから。 だから──、 「や──っ、」 微かに漏れた郁に悲鳴に堂上ははっとしたように身をたじろかせた。 そして狼狽した表情をそのままに、手を放した。 行為が嫌だった訳じゃないのだと郁が教える前に、 「すまん」 そう告げると、堂上はそれから一言も喋ってはくれなかった。 「それはまた……」 郁の話を聞き終えて、柴崎は気の毒そうに口を開いた。 「堂上教官もあんたの性格を知ってるんだから、ちょっと性急すぎたわね」 まあ、堂上からすれば彼だって健全な男子であるし、恋人というポジションをやっとの思いで確保したのだから、そういうことを望んだって間違ってはいないだろう。 今までよく我慢したもんだと逆に褒めてやりたいとぐらいだ。 「あの日から堂上教官、余所余所しくて……」 「そうなの? 今日も普通に怒鳴ってたじゃない」 「仕事の時は同じなのっ!でもそれ以外は二人っきりになりたくないみたいで、なっても、すぐにどっかいっちゃうし……話しづらいし、話しかけても会話は続かないし……」 原因はどう考えてもアレで、元気が取り得の郁にしては珍しいぐらいに気落ちしている。 無理をしても空元気の郁が、こうもしょんぼりとしていると何故かぎゅ っと抱きしめてやりたくなるから不思議だ。 今も柴崎は郁を抱きしめてやっている。 「そう落ち込まないの。一度ぐらいの失敗で落ち込むなんてあんたらしくもないじゃない」 でも、と反論する郁の不安は手に取るように分かった。 初めて好きになった人なのだ、例えどんな些細なことでも不安になるのは乙女としては当然の心理だ。 「……しかしさ、あんた、どうして拒んだりしたの? とっさのことで驚いたの?」 うっと言葉に詰まった郁には違う理由があるらしい。 どうしようかと迷った挙句、柴崎だからと白状した。 「私、あの日、いつもの着てたから……」 「何、もっとはっきり言いなさいよ」 「柴崎と一緒に買いに行ったじゃん!」 「……もしかして、勝負下着のこと?」 それに郁は頷き、柴時はあちゃーと天を仰いだ。 なんて直結回路の持ち主なんだ。 いやいや、そんなことは今更か……それにしても気の毒ね、あの人……。 それはちょっと前の出来事だった。 あの晩も風呂の脱衣所で当然のように服を脱ぐ郁に、 「ねえ、あんた、いっつもスポーツブラだけどさ、それ以外持ってないの?」 「だって大きくないし、必要ないじゃん」 そうじゃない、と突っ込みをいれたくなる欲求を抑え、 「大きさの問題じゃなくて、その格好で一晩共にするつもりなのかって話よ」 「ひ、一晩って……!」 思わずひっくり返った声を上げた郁は顔を真っ赤にしている。 なんて初々しい反応だ。 そんな態度を見せられるとますます困らせたくなる自分はちょっとSの毛があるのかもしれない。 「あんたね、何歳だと思ってるのよ。これが学生同士の清く正しい交際ならまだしも、あんた達は立派な大人でしょうが。そういう関係になったって自然なのよ?分かってる?」 「そ、それは、わ、分かってる……つもりだけど……」 話題にするだけでこんなにしどろもどろになられては堂上でなくても手を出すのを躊躇うかもしれない。 郁がどれほど色恋が不得意かは知っているし、堂上の性格を考えれば自重に自重を重ねるはずだ。 「……で、でも、そーゆーことって暗いところでするんでしょ?だったら見えないんじゃ……」 「朝になって色気の無い下着が落ちてたら興醒めもいいところよ。あんた、相手より早く起きれる自信あるの?」 「……ないです」 唯一の反論もばっさりと斬られ、郁はがくりと肩を落とした。 「別にそれをずっと着続けろって話じゃないんだし、一枚ぐらいは持ってた方がいいんじゃないの?勝負下着ってやつ」 「で、でも……下着売り場で選んで買ったことなんてないもん。それじゃなくても行きづらいし……」 まるで恋人に付き合わされる男のような発言だ。 とはいえ女の子コンプレックスの塊である郁にとって、下着売り場はその総本山に感じられるものなのかもしれない。 それこそピンクの生地に華やかなレースとリボン、まさに可愛らしいという言葉をそのまま表現したような場所が下着売り場なのだ。 しかもメーカー専用の売り場には必ず店員がいて手取り足取り世話をしてくれるのだから、郁の苦手意識は強いに違いない。 ちらりちらりと先ほどから視線を向けられているのは柴崎も感じてはいる。 これほど言いたいことを顔に出てしまう人間はお目にかかれないんじゃないかと思う。 「どうしようかなぁ。昼食を奢ってくれるなら、考えてもいいんだけど……雑誌に載ってたレストランとか行ってみたいなと思っているんだけど」 郁はあっさりそれで手を打ってきたので、頼みの綱だったのだろう。 自分達の昼食の値段からは少し高い店だったので、柴崎は渋る郁を強引に連れて店員のいる下着売り場に連れて行くと、店員と一緒に鬼軍曹の並み厳しさで下着を選んだ。 とにかくシンプルの一点張りの郁に、白地に草花のモチーフがふんだんにされたショーツとブラ、それにキャミソールを買わせることに成功したのだ。 それがまさかこんな悲劇を生む結果になるとは思いもしなかったが。 「……よく考えなさいよ。あの日、あんた外出届、出してなかったじゃない」 そう柴崎は言ったが、郁は分からないようできょとんとしている。 「だから、もしそういうことをする気があったならの話よ?堂上教官だったら、そういうことをしておくように先に言っておくんじゃないのかってこと」 やっと指摘された意味に気付いたのか、郁は口をあんぐりと開け固まった 。 柴崎が一口お茶を啜り終える頃になって、ようやく頭が動き始めたのか、 「じゃ、じゃあ、教官はそういうつもりじゃなくて、ただキスするだけだったかもしれないんだ……」 抑えきれなくて暴走ということだって可能性としてはあるのだが、それは 言わないでおいた。 「ど、どうしよう、柴崎」 「どうしようって言われても、あたし、堂上教官じゃないし」 「やっぱり怒ってるのかなぁ……」 「……どうしてそう思うのよ?」 「だって、自分からして欲しいって言ってきたのに、いきなり嫌がった りしたら、普通、怒らない?」 そう思う気持ちもあるかもしれないが堂上の性格を考えれば、豹変した態度は怒っていることには繋がらないだろう。 逆に性急すぎたと自分を責めているのではないだろうか。 損な性格だなと思うが、それが堂上の可愛いところでもあるのだから、困ったものだ。 「……仕方ないわね、とっておきの解決法を教えてあげる。言っとくけど、手荒いから覚悟しときなさいよ?」 容赦のない言葉とは裏腹に、にこりと笑った柴崎はとても愛らしかった。 無意識に出てしまう溜息に気付き、堂上は全てを振り払うように頭を振った。 こんな様子だから小牧に 「どうしたの?」 などと面と向って訊かれてしまうのだ。 理由は説明できるはずもなくて一度は突っぱねたが、この調子が続けば今度は的確に理由を指摘するに違いない。 ──分かったところで、どうしようもないのだが。 公園での出来事がショックでないといえば嘘になる。 あれほどはっきりと郁から拒否されることは珍しく、だからこそ自分のしてしまったことの大きさを自覚する。 驚いていたというよりは恐怖を抱かせてしまったのではないか──とも思わせる郁の顔が忘れられない。 自分は郁よりも年上でそれなりの判断は出来るつもりだと思っていたと いうのに。 その場の雰囲気に流されて年甲斐もなく舞い上がり、その結果、相手を怖 がらせてしまうなど──情けなくて言い訳も思いつかない。 あの日以来、自分の前に立つ郁の様子は不自然で、原因がそれであることは明白だった。 どうして以前は、あれほど無意識に頭を撫でることが出来たのだろう──そうされると、はにかむように表情を崩す郁を不意に思い出し、胸が締め付けられた。 収蔵庫の鍵を閉め、西日が差し込む廊下を事務室に向って戻ろうとした堂上は思わず足を止めてしまった。 笠原、と名を呼ぶ前に、先手を打たれてしまった。 「堂上教官!お話がありますっ!!」 見るからにいっぱいいっぱいの郁は自分の失態を如実に示しているようで、胸が痛む。 そんな顔をさせている自分が許せなくて、卑怯だとは分かっていたが、 「お前が気にすることじゃない」 悪いのは自分なのだから、そう心の中で続け、堂上は足早に郁の横を通り過ぎた。 ちらりと盗み見た郁の横顔は適当にあしらわれ、失望しているようにも見えた。 「教官! 待って下さいっ!!堂上教官──!」 階段の踊り場までやってくると、背後から必死に呼び止める声がした。 思わず足を止めてしまう自分は未練がましくて、ますます自己嫌悪を深くさせる。 耳を塞ぐように階段をかけ下りようとした、その時、 「堂上教官、避けて──っ!」 "待って"じゃなく"避けて"──? そういえば郁の声は悲痛というよりは絶叫に近いような……。 一体何がと振り返ろうとした瞬間、予想していなかった重みに身体がぐらりと揺れた。 そして、けたたましい物音と共に、そこで堂上の記憶はぷつりと途切れてしまった。 続く
https://w.atwiki.jp/masashi_ichiza/pages/182.html
有名DJちまちのことである。 堂上教官がきっかけでみひとを意識し始める。 まじイケメン声 byみひと
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/98.html
2スレ目 95-96 「笠原ぁああ! 諦めろ!!」 「いっ…やですぅうう…!!」 かれこれ二、三分は続いていようか、この攻防戦。本来ならすぐに止められるであろう状況下で「待った」の声が出ないのはひとえに本人達の希望からだった。 「何よこの公開プレイは」 隣で呆れ口調に呟いた柴崎に手塚も深く頷く。 もうこの情報の女神に微笑まれたどころか女神そのもののような女に情報の出所を聞くだけ無駄だ。せめてちょっとした嫌味を込めて「仕事は?」と聞くと「休憩よ」と反撃のしようもない完璧な答が返ってきた。よせばいいのに聞いてしまった数秒前の自分を殴りたくなった。 「ねぇ、聞いてるんだけど?」 驚いて真横を見下ろす、腕を組んだ姿がまた様になっている柴崎が憮然と手塚を見上げていた。 「…お前のことだからそこまで掴んでるのかと思った」 「私のことそこまで評価してくださるなんて光栄ですわ」 先ほどとはうって変わっての全開営業スマイルに手塚は怯んだ。他とは違う反応に「何を見る目よそれは」とますます膨れる柴崎にうっかり”女神”と答えそうになって手塚は慌てて口を閉じる。 「で? どういうことなのこれ」 「堂上教官と笠原の一騎打ちだ」 「柔道ってそもそも一対一でするもんでしょうが」 それもそうだな、と手塚は素直に頷いた。 「私もルールとか良く知ってるわけじゃないけど、普通こういう風になって完全に決まらなかったら何秒かとかで一旦離れるもんじゃないの?」 「普通はそうだ。だが途中から二人とも意地になりだしてな」 「あぁー、すごく想像できるそれ」 「堂上教官はたっぱでは負けてても力と重さと経験があるからな、それに対して笠原も持ち前の野生の勘と瞬発力で良く逃げてた。逃げながら機会を伺って堂上教官の力が抜けた瞬間を狙って鋭く切り込んでいったり」 「やるじゃない笠原」 堂上と郁が青さが目に眩しい畳の上で重なりあって鼻息荒く蠢く中、二人は彼らとは別の次元のゆったりとした時間の中を生きるように優雅に会話していた。 「んで、どっちが先にキレたの?」 話が早くて助かる、手塚の少し笑った目がそう伝えてきたのが分かる。 「さぁな。気付いたらあの体勢で」 手塚が視線で指した先には押さえ込みで郁の上半身をがっちりホールドする堂上、そして最後の綱である堂上の足を離すまいと足を交差させて耐える郁の姿。 「小牧教官が待てを入れようとした瞬間二人同時に”待った無し!!”って怒号が飛んできた」 「くっ…ふふ…」 熱気のこもる場内に柴崎の笑い声が涼を差す。突然の柴崎の乱入に俄か浮き立つ場内を見て頃合いと思ったのか、小牧が一応は困った風を装って道場の帯を引っ張る。 「ほら、教官殿が意地になってどうするの」 笠原さんも、と小牧が畳み掛けると二人は同時に息を深くついた。堂上が腕を伸ばし、郁が足から力を抜く。ぐったりと畳に肢体を投げ出した郁の頬に何かがぽつりと落ちる。 ゆっくりと目蓋を開けるとまず最初に暗い、と思った。しっかり目を開いて理由が知れた。 「はぁっ……はぁ…はぁ…っ」 自分と同じく荒く息をついた堂上の顔が、思ったよりもずっとすぐ側にある。紅潮した頬と言わず顔全体、恐らくひいては全身。しとどに汗に濡れた額から垂れた汗が自分の、同様に汗に濡れた肌に落ちる。 鈍さに定評のある郁が堂上よりも先にその光景が何を彷彿とさせるか気付いたのは奇跡に近い。 「悪い…やりすぎた」 堂上は珍しく素直に謝ったがもう郁には聞こえていなかった。 「キャ―――ッ!!!」 さしもの鬼教官も慄くほどの叫喚を間近で喰らい、 「ふぐっ…!!」 あまつ声を抑えるのも忘れるほどの衝撃が下腹部を襲う。がくりと片肘をついた堂上の腕の中から転げ出すように逃げ去った郁は一目散に武道場を飛び出しいずこかへ消えた。柴崎が察するに外の水飲み場へ向かったのだろう。 「キャッ…」 「うわっ」 久しぶりに柴崎の口から女の子らしい声を聞いたかと思えば、次の瞬間手塚は思い切り柔道着の裾を引っ張られていた。いじらしい声に続くのは「いや」なんて可愛らしい反応ではなく一生懸命押し殺しているらしい笑い声。 「おい…!」 「だめ、我慢できない…ふふっ! …ちょっと顔隠させて…!」 私のキャラじゃないから。そう言いながらまるで恥ずかしくて堂上の姿を直視できないよう繕って手塚の腕をぎゅっと抱き締め、肩甲骨に顔を埋める柴崎に手塚は動揺する。 「あーはっはっはっ…大丈夫堂上?」 「……っ…」 小牧は目に涙を浮かべながら肘をついて崩れ落ちた堂上の腰を叩いている、何かを落とそうとするように。その間抜けな光景を誰もが指指して笑った。その一角でまた別の二人組が淡い桃色の雰囲気をかもし出しているのにも気付かず。 「…おい、柴崎」 「…待って、あと少し……あと少し経ったら笠原に…どこっ…蹴り上げたか説明しがてら慰めにいくから…っ」 説明しがてら…説明するのが優先か。大事な人の大事な所を蹴り上げてしまった郁の反応を見て更に笑うつもりなのだろう。 「だから、あと少し」 肩の震えを抑え、手塚の肩に頬を摺り寄せてそう呟く柴崎に、手塚は無理やり引き剥がす理由をなくしてしまった。 「あと少しだぞ」 「うん、あと少し」 END.
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/111.html
2スレ目 465 あの矢印がこちらに向いたらどんな感じだろう。 柴崎にとってそれは未知の物で、そして馬鹿馬鹿しいもので、けれどだからこそ憧れた。 あんな風にまっすぐに思われるのはどんな感じだろう。 滑稽なくらいに純粋に誰かを思うその先に、自分がいたらと想像するのはもう柴崎の癖のようなものだ。 あれが欲しい。あの人が、ではなくあの感情が。 だから彼女の恋はいつも歪んでいて、そして少々土臭かった。 「昔、堂上教官が少し好きだったのよ」 何で言おうと思ったか、多分言わなければならないと自分の中で何かが叫んだからだ。初めて夜を共にする相手にいきなりこんなことを言い出すのは違う気もしたが、言っておかなければならない気がしたのも本当だ。 言われた相手は柴崎の服をくつろげる手を止めて、真意を探るように目を合わせてきた。それをまっすぐ見つけ返して彼女はもう一度繰り返す。 「あの人が好きだったの」 自分の言葉に自分で納得するのが妙な感じだった。そうか。 あたし、堂上教官が好きだったんだ。 「笠原しか見てないから、堂上教官が好きだった。……軽蔑する?」 この聞き方は卑怯だと思いながら、それでも問わずに入られなかった。途中で止まったままの手塚の指が怖い。大事にすると言った彼がそのまま離れていってしまったら、そうしたらきっともう恋は出来ない。 「……いや」 先に目を逸らしたのは手塚だった。ふいと顔を背け、止まっていた右手を上げて柴崎の頭にそっと触れる。ぽんぽんと軽く二度叩くのは、今話題になっている上官が恋人を慰めるための手段だ。 「よく引っかからないでくれたと一正に感謝したい。心から」 その言葉に柴崎は思わず笑う。くすくすともれた声に釣られたように手塚が静かに唇を寄せてきた。 「……んっ」 「……本当に」 深くなるキスの隙間で、手塚が小さく何かを呟いた。至近距離だからこそ聞き取れたその言葉に柴崎は耳をすます。 「本当に、おまえ寂しかったんだな……」 よく頑張ったなと、まるきり見当違いの違いの誉め言葉に、けれど彼女の目に涙の膜が張られた。こらえようと眉間に力を入れかけて、そうだこいつの前ではこらえなくていいのだと思い出す。抵抗なく溢れた涙はそのまま柴崎のこめかみを通ってシーツに染みた。 目の前の彼が笠原に交際を申し込んだ時、なんだそりゃと呆れながらも少しだけ笠原を焚きつけた。揺れないと分かっていながら堂上にそれを告げて、動揺した隙に付け込んだ。 堂上の感情は翻らない、翻ったらきっと自分は落胆する、それでもとどこかで期待して、恐れて、あっけらかんと告げた好意は案の定あっけらかんと拒否された。 そして、柴崎はその拒絶に安堵した。 堂上を軽蔑せずにすんで、思えばもう気を許していた笠原を傷つけずにすんだから。 それでも胸が痛かったのは、きっと本当に自分が堂上に恋をしていたからだ。 それがどれだけ間違っていても、それでも恋は恋だ。 「……ん、ぅ」 そろそろと触れてくる指と唇に逆に焦らされながら柴崎はひたすら泣き続ける。ふるふると頭を振れば髪と一緒に涙が散った。泣くなとどこか困ったように目じりを拭う手を逆に捕まえて、柴崎は自分の上にいる手塚を見上げる。ねえ、とあげた声は興奮と羞恥に濡れていた。 「壊れないわよ」 「けど、おまえ」 「いいから」 それでもそっと扱うのをやめない指に、柴崎はだから、と語気を強めた。 「じれったくて死にそうだって言ってんの」 手塚が息を呑んで押し黙り、次の瞬間には先ほどとは打って変わった強さで抱きしめてくる。ようやく手加減なく触れてきた肌に声を上げながら柴崎は身をよじらせた。 耳元で自分を呼ぶ彼の声にさらに涙が散った。 ずっとこれが欲しかったのだ。 この感情が、ではなくこの人が。 自分を大事にしてくれる、自分の大事な人が。
https://w.atwiki.jp/masashi_ichiza/pages/187.html
図書館戦争ラジオのアイドル 「堂上教官!!!!」 「紅一点(べにいってん)」など数々の迷言を残す
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/30.html
「……教官……堂上教官……っ、」 ああ、もうすぐ目が覚めると自覚しつつある頃、聞き覚えのある泣き声が聞こえきた。 図体はデカくて、ガサツで短絡的で乱暴者くせに、お前はどうしてそう泣き虫なんだ。 そんな風に泣かれたら、俺が守ってやらなきゃならんと思っちまうだろう が。 ゆっくりと目を開けると、やはりそこには泣きじゃくる郁がいた。 酷い泣き顔を気付かないぐらい動揺しているということなのだろう、そっと頭を撫でてやると郁は驚いたように顔を上げた。 「堂上教官っ!?目が覚めたんですね!!…………よかったぁ」 ほろほろとまた泣き出した郁を抱きしめようと堂上は身体を起こそうとした。 微かにだが全身に打撲のような痛みを感じ、 「笠原。一体、何が起こったんだ?」 思い出そうとしても、何が起こったのか全く思い出せない。 すると郁はばつが悪そうな顔をし、 「ええと、あの……何度呼んでも教官、聞いてくれないから、あたし追いかけようとして……それで、ちょっと弾みがつきすぎたみたいで……」 いつもの紋切り口調からは想像もできない歯切れの悪さで、堂上は訝しげに郁を見つめた。 すると郁は一度言葉を詰まらせた後、 「階段を下りようとした時に踏み外して、そのまま教官に……」 そこまで説明されて、堂上は呆れたように溜息をついた。 ようするに、飛び込んできた郁の重みをかわすことも受け止める余裕もないままに堂上は郁と階段を転げ落ち、案の定、下敷きになったというこ とか。 ふと見渡せば、ここは救護室であるから郁と共に運び込まれたのだろう。 なんたる失態。 皆が笑う顔が目に浮かび、無意識に堂上の表情は険しくなった。 流石の郁も自分のしてしまったことの重大さに気づいているのだろう、先ほどから一言も喋ろうとしなかった。 「お前は怪我をしてないんだな?」 「えっ、はい、無傷です」 「だったら気にしなくていい。元々の原因は俺にある」 己の運の無さを示されたようで面白くないが、郁が無事ならばそれで良かった。 だが郁は違っていたらしく、 「教官のせいじゃありません!あの時だって、あたしが勝手に勘違いして……!」 身を乗り出してきた郁に、思わず堂上は身を引いてしまった。 しかし郁の表情は真剣で、このまま有耶無耶には出来そうにない。 「い、嫌とかじゃなかったんですっ!本当にあたし……!!」 そんな郁の態度に堂上は負けた。 どんなに逃げたところで、この一本気な娘は無かったことになどしてくれるような性格の持ち主ではなかった。 白黒はっきりさせたがるということは自分が傷付く可能性だってあるというのに、それでも郁はそれを望む。 それぐらい長い付き合いで分かっていたつもりなのに、まず逃げてしまう自分に堂上は自嘲するしかない。 「分かった。お前の言葉を信じるから、少し落ち着け」 優しく肩を叩いてやると、郁は安心したように小さく息を吐いた。 そのまま肩に手を置き、郁の頭を胸元に当たるように抱きしめる。 「でも俺も性急すぎた。怖かっただろう?悪かった」 それもまた間違ってはいないはずだ。 そう思う堂上に、郁は思わず顔を上げ、 「ち、違うんです!あの日は勝負下着を付けてこなかったから……!!」 「…………勝負下着?」 郁には不釣合いな言葉に、堂上は思わず反芻してしまった。 郁の表情はみるみる変化し、すぐに口を滑らせたことは分かってしまった。 堂上はそれでも意味を図りかね、無言のまま郁の返事を待っていると、 「だ、だから、そーゆーことをする時は、そーゆー下着じゃないと駄目だって柴崎に言われてて……それで、あの晩、あたし、教官がそーゆーことをしたいのかなと早とちりしちゃって……」 ずるずると芋ずる式に白状する郁を前に、堂上は冷静でいられる自信が持てなくなってきた。 まさか、そんな風に郁が考えていたとは。 正直、あの時の堂上には、その先など考えもしていなかった。 そう言われてしまうと本当に切羽詰っていたのは自分の方だったのではないかと思えてくる。 顔が真っ赤になっていくのを自覚してしまい、堂上は見られたくないとばかりに返事もせずに、そっぽを向いてしまった。 「……教官?」 「分かった。だから、もういい」 その話には触れないでくれ。 それ以上、触れられたら、そんなことで悩んでいた郁を想像して本気で可愛いと思ってしまう。 それでなくとも、こんな風に傍にいるのは久しぶりで、もっと触れたいという気持ちが騒ぎ出しているというのに。 それを気付かれたくないとばかりに強引に郁を抱きしめると、まだ言い足りなそうではあったが、結局は抱きしめられることを選んだようだ。 良かった。 このまま有耶無耶にしてしまおう。 ──そんなことを考えていたバチなのか、堂上はぐいとシャツと掴まれる感覚に気付いた。 反射的に見下ろしてしまうと、腕の中で郁が不満そうにこちらを見ていた。 いきなり視線が合うとは思ってもいなかった堂上は動揺を隠せなかった。 「だったらここでやり直しませんか?その先だって教官がその気なら……あたし、する覚悟はありますから」 反復するように郁の言葉を堂上は心の中で呟いた。 やり直す?何をだ。何を。何を覚悟してるってんだ──、 「バ、バカなことを軽々しく言うなっ!ここを何処だと思っとるんだっ!!」 郁の言いたいことを理解は出来たものの、到底受け入れられるような話ではない。 動揺する堂上を尻目に何故か郁は冷静で、 「でも定時はとっくに過ぎちゃってるし、寮の門限にも間に合わないし、今夜はここに泊まるつもりでいました」 時計を見ればもうすぐ日付が変わろうとしていた。 寮はどうしたのだと訊くと小牧が上手く取り成してくれたと教えてくれた。 気心の知れた友人が楽しそうに笑っている姿を思い出し、堂上は面白くなさそうに顔を顰めたが、それでも有能な小牧のことだ、そちらの心配は無用だろう。 それに郁の様子を見る限り何を言われても堂上の目が覚めるまで付き添うつもりでいたに違いない。 どうせ只の脳震盪だったろうに──自分も心配性だが、郁も似たようなものではないか。 堂上は呆れたように溜息をつくと、 「…………やっぱり堂上教官はあたしとはしたくないんですか?」 その溜息を郁はそう捉えたようだ。 見るからにしょんぼりと様子に、思っていることが手に取るように分かってしまった。 どうせまた胸が小さいとか腹筋が割れているとか女らしくないとか──そんなことを気にしているのだろう。 堂上から見れば、普段の言動があまりに漢らしく相殺以上に割を食っているだけで郁は十分に女の子だった。 髪からはシャンプーのほのかな香りが鼻をくすぐるし、日に焼けた肌は健康的で触れると驚くほど柔らかい。 そして手を握られるだけで緊張しているのが分かってしまうぐらい初々しい反応は女の子以外の何者でもないだろうに。 「そうじゃない。ただ、こんな風に流されて関係を結びたくないだけだ」 「別に流されてはいないと思うんですけど……ちゃんと覚悟はしてきましたし……」 どうやら郁にとっての覚悟とは勝負下着を付けてきたということらしく、胸元に手を当てる郁の姿は妙に微笑ましい。 思わず緩みかかった堂上の自制心を郁は簡単に真っ二つにした。 「それに……あたし、今夜は教官から離れたくないみたいなんです」 きっと頭の打ち所が悪かったのだと堂上は思った。 そうでなければ、こんな風に簡単に流されてしまうなんて、あるはずがない。 なんて頭の悪い言い訳だと自覚しつつも、そうでもしなければ自我を保つ自信すらなくなってしまいそうだった。 膝の上に跨ぐように座らせ、やんわりと唇を奪うと郁は苦しそうに息を漏らした。 その僅かな吐息すらも勿体ないとばかりに堂上は更に深く口付けを求める。 狭い口内を舌で突付き、歯列をなぞる。 ぶるりと震えた郁の身体をしっかりと抱きかかえ下唇を甘噛みし、もう一度口付けを交わすと、今度は舌を吸い上げた。 その一つ一つに初々しく反応する様は堂上の情欲を煽る。 首筋をなぞるように舌を這わせつつ、シャツのボタンを外すと、反射的になのか郁の手が胸元を隠した。 「あ、あの……教官、笑わないって約束、忘れないで下さいね」 そこまで恥かしがることではないだろうに。 ちらりと見えたキャミソールは白地に草花が施されていて確かに女性の下着という感じはするが、堂上には郁がそこまで気にする必要などないように見えた。 とはいえ、この場では郁を安心させることが先決で、堂上が力強く頷くと、郁もゆっくりと両手をシーツの上に置いた。 郁のシャツも追うようにシーツに落とされると、そこには月明かりに照られた下着姿の郁が見えた。 「よく似合ってる」 そう告げると、郁は安心したように安堵の息を漏らした。 実際、本当に困ったぐらいにその下着は郁に似合っていた。 しかも自分の為に着てきてくれたのだから、嬉しくないはずがない。 ──参った、こんな姿を見せ付けられて、最後まで冷静でいられる自信が持てなくなってきた。 「…………堂上教官?」 手が止まってしまったことを心配しているのか、郁の表情は不安の色が見て取れて、堂上は違うと首を横に振った。 「お前があんまりもにも女の子だから、少し驚いただけだ」 「お、おんなのこって……!」 堂上の挑発に簡単にひっかかった郁は反射的に噛み付くように口を開いたものの、肝心の言葉が出ないようで、口をパクパクさせるのが精一杯のようだ。 この様子ならば緊張も幾らかは収まっただろう、詫びるように頬に唇を落とすと郁は一瞬驚いたものの、おずおずと手を伸ばし、堂上のシャツの裾を掴んだ。 仲直りということらしい──堂上は小さく笑いつつ、郁の短かな髪をかき分け、うなじに軽く歯を立てて吸い付いた。 郁は喉を振るわせるように息を漏らしたが拒むようなことはせず、耐えるように堂上の行為を受け入れてるようだった。 キャミソールの上から乳房というには物足りない大きさの胸に手の平を置いてみる。 撫でるように触れていると、郁はくすぐったそうに身を捩じらせた。 「脱がすぞ? いいんだな?」 今更何を確かめているのか。 今ならば戻れるなどと、そんな甘い考えを抱いてしまっているからなのだろうか。 そんな堂上の気持ちとは裏腹に、郁は小さく頷き、堂上の動きを手助けした。 キャミソールを脱がし、ブラジャーも外させる。 反射的に隠そうとする郁の手を掴み、堂上はそのささやかな胸の蕾に吸いついた。 舌でころころと転がしてやると、少しずつ硬さが帯びてくるのがはっきりと分かる。 掴んだ郁の手は自分の肩を置くように教え、空いた手の平で胸を鷲掴みにした。 「あっ、やっ……教官……っ」 初めて知る快楽に郁はふるふると頭を横に振っていたが、身体は驚くほど正直に反応している。 ほんのり上気した肌に、まるで自分の所有物だといわんばかりに赤い跡をつけてしまう自分は、これほど独占欲が強かっただろうか。 それとも相手が郁だからか──偶然出会い、その凛とした背中が未だ忘れられなかった特別な相手だからなのか。 想いの強さなら堂上とて負けはしない。 この手で守り、この手で育み、共に歩みたいと願う気持ちは他の誰よりも強いつもりだ。 「笠原、」 戸惑う郁に口付けてやりながら、堂上の手はするすると郁の下腹部に移動する。 括れた腰のラインを滑り落ち、もどかしそうにパンツスーツのパンツとショーツを腿のあたりまで下ろした。 確かめるようにゆっくりと足の付け根に手を入れると、そこはうっすらとだが湿っていた。 ぴたりと閉ざされた割れ目を中指で何度も擦ってやると、徐々にだが湿り気が増してきたような気がする。 初めてにしては感度が良すぎる郁は目をぎゅっと瞑り堪えているようだった。 安心させるようにと啄む口付けをしてやると、郁もまた自分からそれを求めてきた。 たどたどしい口付けを交わしつつ、堂上は愛液に濡れた指先で厚くなった花びらを開かせるように指を這わせてみた。 郁が驚き反射的に身体を退かせる前に畳み掛けるように堂上は無骨な指を割れ目に差し込んだ。 まずは入り口付近をくすぐるように触ると、想像していた通り異性を知らない郁の中はかなり狭く、指が一本でもきついぐらいだった。 それでも慣らすように時間をかけて内部を解すように指を動かす。 指を二本にしても大丈夫になった頃になると、空いていた手を使い、同時に恥毛に隠れる小さな突起を探し当て、同時に刺激し始めた。 「やっ、堂上教官──っ」 鈍い痛みと同時に、鋭い刺激が交じり、郁は慌てるように身体を強張らせた。 視線は戸惑いを強く滲ませているものだというのに、何処か甘みも注していて、それが酷く艶めいて見えた。 強引に内部を刺激するよりは最も敏感な部分を刺激した方が郁も素直に感じることができるはずだ。 愛液で濡らした指先でくすぐるように突起を撫で、郁が十分に感じてることを確認してから、そっと包皮を剥き、新芽を指の腹で摘んでやった。 効果は覿面だったようで、郁は髪を振り乱し、戦慄いた。 腰から手を回している堂上に支えてもらわなければ、立っていることもできない。 それでも堂上は止めようとはせず、更に手の動きを早めた。 少しずつであるが、郁の弱い場所が分かり始めてきた。 「あっ、あっ、あーーーっ!!」 抑えきれない甘い声を上げ、郁は身体を大きく震わせた。 がくがくとまるで人形のように揺れ、堂上の肩に顔を押し付け、荒々しいままに息を吐いている。 愛液でびしょ濡れになった指を引き抜き、堂上は郁の汗ばんだ背中を落ち着かせるように規則的に優しく叩いてやった。 初めてにしては上出来だろう。 そしてベットの上に乱雑に投げ出されていたシャツを郁に羽織らせてやった。 「堂上教官……?」 「今日はこれで終わりだ」 「終わりって……。でも、まだ、」 「このままする訳にはいかん」 それぐらいの良心は堂上にだって残っている。 無責任な行いで傷付くのは郁の方なのだから。 すると郁は思い出したようにパンツのポケットからハンカチを取り出し、 その中から何かを堂上に差し出した。 差し出された堂上はぎょっとした顔で郁を見つめたが、相手はあっけらかんとしていて、堂上はますます混乱した。 それはどう見てもコンドームだった。 一体どうしてそんなものを郁が持っているのか──普通は持っていないものではないのか。 それとも郁のぐらいの歳ならば持つのは常識なのだろうか。 いや、そんな馬鹿な話があるか。 迷いに迷った挙句、堂上は恐る恐る訊くと、 「柴崎が一つぐらいは持っておきなさいって、くれたんです」 してやったりと微笑む柴崎の表情を思い浮かべ、堂上は頭を抱えたくなった。 これでは筒抜けもいいところだ。 恐るべし柴崎。 可愛い顔をして、性格は小悪魔そのものだ。 興味津々といった様子の郁を前に、堂上の顔は一向に晴れそうになかった 。 このまま柴崎の思惑に乗るのも癪ではあるが、離れる気もない郁を前にここからどう拒めばいいのか。 誰か妙案があったら教えて欲しい。 大金はたいてでも買ってやるから。 「…………続き、したいのか?」 一瞬、郁は言葉に詰まったものの、小さく頷いた。 その仕種が可愛いと思ってしまう自分はかなり毒されているに違いない。 その毒がやっかいなぐらいに心地良いものだから始末が悪い。 そもそも、そんなことを改めて訊いている時点で既に遅いのだ。 態のいい言い訳を探している自分を認め、堂上は郁の背中に腕を回し、ベットに仰向けにさせた。 訳の分からない郁に考える余裕を与える前に、膝あたりまで下ろされていたパンツとショーツを脱がし、身体で足を開かせた。 ぐっと内腿を開かせると、流石に何をされるのか分かったのか郁は恥かしいとばかりに両手で顔を覆った。 その初々しい反応に気を良くするように、堂上は既に張り詰めた自身に避妊具を付け、解れつつある秘部に宛がった。 だが郁は触れられるだけでも怖いのか、身動き一つしようとしない。 まるで固まってしまったような郁に堂上はどうしたものかと、その頭を撫でてやった。 「すまん……痛くしないとは言えんのだ」 「わ、分かってます……あたしが丈夫なのは教官も知ってるじゃありませんか」 「ああ、そのくせ泣き虫なのもよく知ってる」 真っ赤になった耳たぶを甘噛みすると、郁はそれだけで感じてしまうのか、小さく声を漏らしてしまった。 思わず反応してしまった自分に更に赤面する郁の姿は世辞抜きに愛らしく、自身をいっそう滾らせる。 ゴム越しにぬるりとした愛液を擦り付けるように腰を動かしていると、それだけでも十分に気持ちが良かった。 痛みを伴う行為に及ぶよりも、このままで果ててしまった方が郁にとっては良いのではないかとそう思い始めた頃、 「……もう平気です……教官だから大丈夫ですから……」 郁は顔を隠していた手を堂上の背中まで伸ばすと、そこでぎゅっとシャツを握り締めた。 縋られるような、それでいて頼られているのだと分かる郁の態度に、心身がそれだけで満たされるような感覚を覚えた。 ああ、こんなにも自分はこいつに心奪われているのか──今更ながらそれを実感する。 そして同時にただ欲しいと思った。 湧き上がってくる純粋な欲求を僅かな理性で押さえつけ、堂上は自身をゆっくりと秘口に捻じ込んだ。 「やっ、あ、あぁっ──!」 頭では分かっていたのだろうが、実際はそれ以上のものだったのだろう。 郁は思わず悲鳴に似た声を上げ、それを必死に堪えるように唇を噛み締めていた。 郁の内部は堂上を向い入れるどころが排除するように侵入者を締め付けてきて、動くのも間々ならない有様だった。 安心させるように頭を撫でてやったり耳たぶや頬にキスをしてみたが、郁 は分かってると言うように、うんうんと頷くので精一杯のようだ。 やはり早すぎたか──ちらりとそんなことも脳裏を掠めたが、今更やめられるはずもない。 堂上はすまんと一言だけ詫びると、一気に郁を貫いた。 「やっ、あっ、はぁっ……どうして、こんなに熱……っ」 うわ言のように呟く郁に堂上は塞ぐように深い口付けをする。 唾液と唾液が交じり合うほど激しいキスをすると、郁はそれに応えたいの か、堂上の行為を真似をするかのように舌を絡ませてくる。 息苦しさから唇を離すと同時に郁の甘い吐息も漏れた。 惚れた相手が全身を赤く染め、潤んだ瞳で一心に見上げて冷静でいられる男などいるなどこの世にいるのだろうか。 ちりちりとした荒々しい熱情のようなものに背中を押されるように、堂上は動き始めた。 こちらを取り込んでしまうかのような圧迫感に自然と息が漏れる。 もう一度、繋がった感覚を確かめたくて、勢いよく腰を引き、もう一度捻じ込むように腰を押し付ける。 狭い内部を満たすように溢れる愛液が僅かな隙間から零れ落ちると、そこにはうっすらと朱色が交じっていた。 それは郁が誰も受け入れていなかった証であり、初めての相手に堂上を受け入れた証でもある。 無性に愛しさが募った。 奥深い場所で円を描くように襞に先端を押し当てると、郁は堂上の腕の中で身体を大きくしならせた。 その表情は痛みから歪んでいたが、繋がっている場所は馴染むようにねっとりと堂上を締め上げている。 その動きに思わず堂上は息を飲んだ。 うっかりすると、このまま簡単に果ててしまいそうだ。 郁のことを考えれば早く終わらせてやりたいのだが、少しでも繋がっていたのも堂上の本音で、何度も味わうように腰を打ちつけていると、徐々にその速さを抑えきれなくなってきた。 今にも吐き出したいという欲望そのままに、絡みつく襞に押し当てるように溜まっていた精を吐き出した。 開放感と共に言葉に出来ない満足感に満たされ、堂上は苗字ではなく郁の名を呼んだ。 「郁……」 もう一度、搾り出すような声でその名を呼ぶと、郁は嬉しそうに堂上を抱きしめた。 強い日の光に郁は目が覚めた。 そして見慣れぬ天上に、思わず跳ね起きる。 「……いたたた」 変な寝相でもしたせいなのか、腰が痛い。 どうしてと思った瞬間、昨晩のことを思い出した。 あ、あれっ、堂上教官はっ!? よく見れば郁が寝ていたベットは昨日堂上が寝てところの隣で、その堂上の姿は見当たらない。 シャツは着ており、毛布もかけられていた。 きっとこれは堂上がしてくれたのだろう。 ご丁寧に下着の類までベットの隅に整理されているのを見つけ、確かに柴崎の言うとおり肌色のスポーツブラとショーツでは興醒めしていたかもしれないと思った。 「って、そんなことよりも教官は──」 郁がベットから降りようとしたのと同時に救護室のドアが開いた。 「起きたのか?」 相手は堂上で、郁は状況が理解できずにきょとんと見上げてしまった。 すると堂上は困ったように視線を逸らし、 「……身体は平気か?立てるか?」 「はい、大丈夫です。立てます。……ちょっと足の間に何か挟まってるみたいで気持ち悪いんですけど」 郁としては正直に答えただけなのだが、堂上はそっぽを向くと口を手の平で覆ってしまった。 よくよく見ると、顔が赤いような……。 「堂上教官?」 「うるさいっ!いつまでそんな格好でいるつもりなんだ、早く服を着ろっ!!」 「えっ? ──や、やだっ!教官のエッチ!!」 「誰のせいだ、誰の!」 売り言葉に買い言葉で郁も無意識に噛み付いてしまったが、それどころではない。 今の自分は裸にシャツ一枚という姿だったのを堂上に指摘されるまで全く気付かなかった。 気まずそうに堂上が後ろを向いてくれたので、郁は急いで下着を付け、シワになってしまった制服に袖を通した。 着替えたのはいいのだが、今度は話すタイミングが見つからない。 とりあえず当たり障りのないところからと、 「そういえば教官、何処に行ってたんですか?」 「洗濯だ」 何を?とご丁寧に訊くと、堂上の表情はみるみるうちに強張った。 うわっ、これは落雷の一歩手前──反射的に目を瞑ってしまった郁だが、どんなに待っても雷は落ちてはこなかった。 逆に深々と溜息をつかれ、 「流石に汚れたシーツをそのままにはできんだろうが」 一瞬意味が分からなかったが、郁もようやく気付くと、しどろもどろになりつつも頷いた。 「す、すみせんっ。……血って落ち難くくありませんでしたか……?」 「別の布を下に敷いてオキシドールで濡らした布で上から叩けば、大抵のもんは落ちる」 「へぇ……そうなんだぁ……」 今度やってみようかなと純粋に感心していると、堂上は眉を顰め、 「あのな、お前……」 しかし続けようとした言葉を飲み込んでしまった。 珍しいとそんな堂上を郁は楽しげに見上げた。 その視線に気付いたのか、 「何がそんなに嬉しいんだ、お前は」 「だって嬉しいに決まってるじゃありませんか。あたしもこれで一人前の女なのかなーって、あ痛っ!もう、いきなり殴らないで下さいって、いつも言ってるじゃありませんかっ!!」 「何が一人前だ。柴崎に唆されただけだろうが」 「いいじゃないですか、昔から「終わり良ければすべて良し」って言うし」 「全然よくないわっ!」 結局、また拳骨を食らった郁だったが、終始堂上が不機嫌だった理由はすぐに分かった。 出勤時間なると、小牧には 「昨日は大変だったねえ」 などと開口一番に言われ、玄田には「仲直りしたのか」とからかわれ、柴崎にはすぐに感づかれた。 手塚だけは周囲のからかいの声にも全く理解できないのか首を傾げているのが唯一の救いか。 でも、これは誰が見ても針のむしろだわ……。 悪いことしたなぁと今更ながら思い至り、今夜にでも柴崎にまた相談してみようかなと本気で考え始めていた。 それが更に堂上の不機嫌さを増すことになるなど、郁が気付くはずもなかった。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/13.html
1スレ目:17-19 堂上は笠原とキスをしていることを盛大に後悔していた。 業務時間外の書庫だから人が来る可能性は限りなく低い。念のため内から鍵をか けているから、万が一鍵を開けられても見られることは無いだろう。 笠原を書棚に押し付ける形なのは、初めての時笠原の腰がくだけて立っていられな くなったからだが、両手では足りないほどキスを繰り返した今、もう慣れたのか足 は少し震えるものの堂上の支えもあって何とか自立している。 本の匂いに仕事を思い出す(というかここは仕事場だ)場所に、空調と舌を絡める音 だけが響く。湧き上がる欲望を押さえ込みつつ身体を離すと、笠原は少し潤んだ目 で「今日もありがとうございました」と言った。 「うまくなったな」 正直溺れてしまってあまり記憶に無いが、そんなことはおくびにも出さずキスの評 価をする。なんと馬鹿げた関係。 キスを教えて欲しいと請われた時になんで断らなかったのか。普段なら絶対に了承 しないような願いに応えたことについて、今更考えても詮無いことであった。 はじまりは2週間前に遡る。 「聞いてください!王子様の居所掴めそうなんです!」 堂上は含んでいた茶を盛大に噴出し、かつ気管に入れてむせた。 「何やってるんですか汚いー」 っていうか何を言っているんだキサマは、と言いたいところをさらにむせる。正直 事務室にいるのが自分だけでよかったとか思えたのは、咳が落ち着いてからだった。 笠原の王子様話は、堂上から叱られる度に堂上との比較という形で俎上に上ってい たため、笠原にとって堂上に対しては持ちネタ並に露出している。 今回の話も事務室に堂上以外の誰もいなかったから始めたのだろう。 内心の動揺を気取られぬように落ち着いた声で先を促してみる。 「…それで、何処の奴だったんだ」 「なんか、北海道にそれらしき人がいるらしくて~」 堂上は椅子から転げ落ちそうになり、やっぱり自分ひとりでよかったと思った。小 牧あたりが聞いていたらもう大爆笑であっただろう。 「柴崎情報ですよ。次の連休に観光がてら二人で行ってみようって話になってるん です」 何のつもりだろう。柴崎は堂上が笠原の『王子様』であることを知っているはずだ。 「からかわれているんだ!」 「何言ってるんですか、酷い。柴崎の情報網の凄さは教官だって知ってるじゃない ですか!っていうか柴崎のことを信じられないんですか?!」 知らぬは彼女ばかりなり。心底心配したのに、この扱いはどうだ。っていうか何を 考えている柴崎。どうにも返事が思いつかず黙っていたが、本当の爆弾はこの後に 来た。 今までの勢いが全て無かったかのように沈黙した後、 「キスを教えてもらえませんか?」 「…は?」 「だから、キスの仕方を教えてくださいって言ってるんです!」 顔を赤らめてはいるが何故か喧嘩腰で言われたその言葉の意味が飲み込めない。 どんな飛躍だ。 『あなたを追いかけてここにきました』と言うということは耳にタコが出来るぐら い聞いているが、なぜそれがこんなことに。 笠原のもったいぶった言い回しを要約すると、『キスが拙いとカッコ悪い』らしい。 意味が分からない。柴崎の入れ知恵か?遊ばれているのか? ─────というか、何故俺が、俺にキスをするための練習台に? 怒っていいのか喜んでいいのか何なのか分からなくなり、とにかく怒鳴りつける。 「アホか!俺はそんなことを教えるためにお前の上官をやってるんじゃない!」 「でも頼めそうな人堂上教官しか…」 「でも とか言うな常識で考えろ!こういうことは好きな人とやるもんだろう!」 あ、これは。 泣き顔と泣きそうな顔はいくらでも見てる。これは、泣きそうな顔だ。 「堂上教官のご迷惑も考えず すいませんでしたッ。小牧教官に頼んでみます!」 くるりと踵を返し、事務室を出て行こうとする。 何でだ。何故そこで小牧。あっちにはれっきとした彼女がいるからそれこそ迷惑 じゃないのか。しかし一途な笠原のこと、頼んでみると言うのだからきっと頼むに 違いない。そう思った瞬間堂上は笠原の腕を掴んで引き止めていた。 冷静に考えれば小牧が引き受けるわけもなかったはずだが、その時は混乱していた という言い訳ももう遅い。 こんなに馬鹿だとは思わなかった。誰がだ?俺もだ。 笠原の去った書庫で、堂上は一人ため息をついた。 了